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一九四二年、リンパ節を広範囲に取り除くことが提唱され、さらに一九五三年にはリンパ節徹底的郭清術と名づけて、幽門後部、肝動脈にそったリンパ節、肝十二指腸開膜内、牌動脈領域までのリンパ節を十分取り除くことが必要であるとされた。
これと前後して、一九五五年ごろから胃がんの手術でリンパ節を広く取り除く手術が行われ、リンパ節を組織学的に調べ、一九六一年には「胃癌拡大根治手術の必要性について」と題する報告がみられるようになった。
拡大根治手術というのは現在一般に広く行われている標準手術以上の手術というような意味ではない。
拡大根治手術という言葉はもともとがんとともに、癒着・浸潤している隣接臓器や、転移の予想される所属リンパ節を含めて、一括しで切り取る手術に用いられる言葉で、リンパ節を取り除くことではもっとも広範囲に行う手術法である。
この拡大という意味については二つの方向がある。
一つは連続性の拡がりを健康な部分で切り取ることであり、いま一つは所属リンパ節を広い範囲にわたって十分取り除くことである。
リンパ節転移のほうは、その境界が肉眼的にはまったくわからないので、十分広く行われることになる。
この考えかたにしたがって行われた手術で取り出されたリンパ節を調べたところ、転移のあったものは三二・五パーセントであった。
その後さらに、徹底的にリンパ節を取り除いて調べた結果でも、転移のあったリンパ節は一五・五パーセント、転移のないリンパ節は八四・五パーセントであったとの報告もみられるようになった。
このような結果から、胃がんの手術に際して、がんの進行度、リンパ節転移の有無などにかかわりなく、系統的に所属リンパ節を取り除く画一的な手術が胃がんに対する根治手術として行われるようになった。
一九六六年、私はN氏の指導を受けることになった。
氏はリンパ節をリンパ節の摘除をめぐって取り除くことを重視しない手術を行っていた。
そこで、徹底的にリン取り除いた手術成績と中山氏の手術成績をくらべてみた。
驚いたことはこれらの手術成績は同じで差がなかった。
そこで、私はリンパ節を徹底的に取り除くことに疑問を強く持つにいたった。
このころから、がんの免疫学が進歩し、がんをもった生体の抗がん性免疫作用が解明されてくるにつれて、がんのときの所属リンパ節の機能についても研究がすすみ、免疫の成立、およびその維持に果す所属リンパ節の役割について注意が払われるようになってきた。
がん病巣からがん細胞がリンパ節に到達したとき、所属リンパ節の機能としては二つあり、がん細胞を通さないようにするフィルターの役目と、リンパ球のもつ免疫学的な抗がん性作用により、がん細胞の増殖を抑制するはたらきとが考えられるようになってきた。
このように所属リンパ節は、がんをもった生体の防御機構の一部を受け持ち、抗がん性免疫反応が現われる場所であることが認められてきた。
胃がんのリンパ節について、免疫学的に調べてみたところ、がんに近い第一群リンパ節では、リンパ節に到達し定着した多くのがん細胞の転移能力はリンパ節の抗がん力、いわゆる防御能力を上まわっており、あるものではすでに完全な転移をつくり、また、転移をつくるにはいたっていないものでも、個々のがん細胞はすでに十分な転移能力を備えた状態にある。
もう一つのより遠隔にある第三群リンパ節では、抗がん力は衰えておらず、転移はみられないか、あるいはがん細胞かこのリンパ節に到達はしていても、定着・増殖できない状態にあることがわかった。
このような結果から、早期胃がんを完全に治す手術は、胃を切り取る範囲がどうであっても、第一群リンパ節のほか、第二群リンパ節、あるいは第三群リンパ節で転移がすでにあるか、あるいはごく近い将来転移の可能性のあるリンパ節は取り除かなければならないが、転移のない第二群リンパ節、あるいは第三群リンパ節を取り除く必要はないということになる。
これまでの拡大根治手術といわれていたような手術では転移があろうがなかろうがすべてのリンパ節を取り除いていたが、転移のある、あるいは転移の可能性のあるリンパ節だけを取り除く手術のほうがはるかに合理的な手術であり、このような手術こそ行われるべきであると提唱されるにいたった。
もちろん、進行胃がんに対しては、拡大根治手術を行うことはいうまでもない。
やや専門的な話が続いてきたので、ここで胃を切り取る範囲についても述べておこう。
胃を三分の二切り取ったとか、全部切り取ったなどといわれているのを耳にする。
胃を切り取る範囲(胃亜全摘)胃を切り取る範囲についてはどう考えたらよいだろうか。
もちろん、進行胃がんでは、がんのある部分から十分離れて、健康なところで切り取ることはいうまでもない。
問題になるのは早期胃がんの場合である。
早期胃がんの場合、がん病巣から一センチメートル離れると、取り残しはないという意見もある。
しかし、このような簡単な決めかたでよいであろうか。
胃のなかにがんが多発する多発胃がんがある。
その頻度は一〇パーセント前後といわれている。
多発胃がんの胃壁のなかの分布を調べてみると、F・ライン(主細胞と壁細胞が連続性に現われる幽門側端)の肛門側にあることがわかった。
このF・ラインは年齢を重ねるとともに胃の口側に移動することがしられている。
また、多発胃がんのなかには、手術前に診断することのむつかしい微小がんといった小さな胃がんも多い。
このような胃がんは、いわゆる中間帯にある。
したがって、胃を切り取る範囲はこの中間帯を含んでいなければならない。
そのために、できるだけ小鸞側を噴門に近く切り取ることが必要である。
胃全部を切り取る胃全摘は、一八九七年、S氏が成功したのにはじまる。
胃全摘を行うか行わないかは、主に局所の所見によって決められる。
がんが胃全体に及んでいれば胃全摘が行われる。
しかし、近年、早期胃がんを見つけ出すことが多くなり、胃全摘の症例は減る傾向にある。
胃癌研究会の調査報告によれば、胃全摘が行われた症例は二六・九パーセントである。
がんの胃壁内進展は、主ながん病巣から五〜六センチメートルに及ぶこともある。
したがって、十分な距離をとろうとすれば、全摘せざるをえない場合がある。
そのほか、噴門リンパ節、あるいは小鸞の上部のリンパ節に転移があれば、リンパ節を切り取るために胃全摘をしなければならない。
胃全摘後には、合併症や術後障害がおこりやすい。
胃全摘後の再建法にとくに関係ある合併症として、食道と空腸の吻合部が狭くなること申、縫合がうまくいかないで孔があく縫合不全がある。
術後障害としては無胃性貧血、消化吸収障害(炭水化物、たんぱく質の消化吸収はほとんど問題ないが、脂肪については食べ物が十二指腸を通るかどうかによって大きな影響を受けるようである)、栄養低下、低たんぱく血症、浮腫(むくみ)、食餌性過血糖中低血糖のような消化吸収、あるいは代謝の問題、下痢、心悸完進などのダンピング症状、逆流性食道炎、骨軟化症、骨粗鴛症など、枚挙にいとまがないほどである。
これらの障害はいろいろの原因によっておこるが、主なものはつぎのようなものである。
無胃性貧血は、胃内因子の欠如、塩酸分泌や消化液分泌機能の脱落によるもので、鉄剤、ビタミンや葉酸により改善がはがられる。
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